確定拠出年金とは?
国の年金(国民年金)や旧来の企業年金は、国や企業が将来の受け取り(給付)額を約束して、運用もお任せでしてくれる「確定給付(型)年金」でした。「確定拠出(型)年金」は、月々積み立てられる資金を「自分で運用」する年金の仕組みです。
確定拠出年金には、会社が企業年金として取り入れる「企業型」と、個人が金融機関などに口座を開いて行う「個人型」があります。この個人型に「イデコ」という愛称が付けられています。
この記事では、個人型イデコを中心に、この確定拠出年金という器でする資産運用の、本当のメリットや利用方法について解説します。
- 確定拠出年金の仕組みが簡単にわかる
- 確定拠出年金を利用した資産運用の本当のメリットや利用方法がわかる
確定拠出年金の仕組み4つのポイント
まずは確定拠出年金の仕組みを4つのポイントでわかりやすく説明してみます。
- 企業型/個人型の違い
- 自分でする「運用」とは?
- 限度額と受け取り(給付)
- 税金の優遇
企業型/個人型の違い
企業型は、企業が導入する確定拠出年金なので、導入している企業に勤める人だけが加入できます。個人型イデコのほうは、以前は自営業者と企業年金が無い会社員向けの制度でしたが、今は企業型に加入している人を含め会社員、公務員など職業を問わず加入できる制度になりました。
企業型は積み立ての資金(掛け金)を出すのも基本は企業ですが、個人型イデコは個人が自分で掛け金を出します。もともと確定拠出年金は「運用を自分でする」のが特徴なので、個人型イデコは、年金の仕組みとはいえ、個人が普通に積立投資で資産運用をするのと変わらない、といえます。
自分でする「運用」とは?
確定拠出年金でする「運用」とは、具体的には投資信託を中心にしたいくつかの金融商品の選択肢の中から、掛け金で投資する投資先と投資額を決める、ということです。
この選択肢のことを「プラン」と言います。企業型ではプランを企業が用意、個人型イデコの場合は口座を開設する金融機関等が用意しているプランで運用します。
掛け金で買い付ける投資先や金額を途中で変更したり、既に投資している金融商品を選択枝の別の金融商品に買い替えることも可能です。
限度額と受け取り(給付)
税金面で優遇されている制度なので、掛け金の額には上限があります。
個人型イデコでは
・自営業者の場合月6万8千円
・専業主婦や企業年金のない会社員月2万3千円
・公務員や企業年金のある会社員月1万2千円等
となっています。限度額の範囲内で積み立て額を途中で変更したり、休止も出来ます。
年金の制度なので、受け取り(年金または一時金)は60歳までできない仕組みです。
税金の優遇
確定拠出年金は「NISA」と並んで資産運用にかかる税金が優遇される制度です。
確定拠出年金では、積み立てる掛け金、運用の利益、そして年金または一時金での支払い、の3つの段階で、非課税や所得控除(課税される対象額が実際の所得などの額より減額される)によって優遇されます。
積み立ての掛け金は全額所得控除、運用の利益(分配金や売買益)も非課税で運用を続けることができます。
そして支払いを受ける時には年金払いであれば公的年金等控除、一時払いであれば退職所得控除によって、所得税の対象額が減額される仕組みがあります。
以上が確定拠出年金の制度や仕組みの特徴です。企業型と個人型の違い、自分でする「運用」の内容、積み立て額や受け取りの制限そして、積み立て、運用、受け取りの3段階で税金の優遇がある点は、やはり目立っています。
では、資産運用の初心者やはじめての資産運用をする人は、この制度をどう利用すればよいのでしょうか?以下、記事の後半ではこの仕組みを使った資産運用の方法や考え方についてお伝えしてゆきます。
投資信託に長期、積み立ての方法で投資する
確定拠出年金の投資先はプランの「投資信託」です。投資方法は月々の掛け金で買い付ける「積み立て投資」です。いったん積み立てた掛け金は60歳まで受け取ることができないのでその投資は20年30年の「長期」になります。
資産運用には色々な方法が考えられますが、確定拠出年金ではそれが「投資信託、長期、積み立て」と決まっているわけです。
最初にこれについて考えます。
- 投資信託はリスク管理されている
- 積み立て投資はさらに安定した投資ができる方法
- 長期投資は本来の投資目的に合致
投資信託はリスク管理されている
別の記事にも書いたとおり、投資信託とは個人の資産運用に欠かせない金融商品です。
そのメリットは様々ありますが、少額でも投資できるいっぽうで、運用は集めた資金を多数の投資先に「分散投資」するなど「リスク管理」されていて、運用結果が安定することです。もちろん、投資信託も種類によってリスクの度合いは様々ですが、確定拠出年金向けの投資信託は安定した投資成果が想定できる種類のものが多くなっています。
積み立て投資はさらに安定した投資ができる方法
それでも投資信託には、市場全体、たとえば株価指数が日々値動きするのと似たようなリスクが残ります。株価指数も時には数ヵ月の間に半値になるような大きな値下がりがあります。ところが、積み立て投資とはそういう値動きがあっても運用成果を均らすような働きがある投資方法なので、さらに安定した投資をすることができるのです。
長期投資は本来の投資目的に合致
投資信託に投資するにも色々な方法が考えられます。でも投資信託にも株価指数などと同じような値動きがあるとして、初心者がその値動きをとらえて利益をあげるのは難しいでしょう。とすれば、初心者が投資信託に投資する目的は、結局は株価指数のように10年20年の時間をかけて市場が成長するのを捉えることです。確定拠出年金は、60歳まで引き出しできないので、否が応にも10年20年単位の長期間運用を続けることになります。それが時間をかけた市場の成長を捉えるという投資の目的に合致して成果が期待できるのです。
こう考えてゆくと、確定拠出年金の「投資信託、長期、積み立て」の投資方法そのものが、初心者の資産運用にとってメリットがあるということがわかります。税金の優遇がどうしても目立つ制度ですが、それ以前にこの仕組みが資産運用の方法として優れている、ということを頭に入れておきましょう。
「税金の優遇」本当のところ
次に「税金の優遇」について考えます。
- 投資元金や運用の利益に税金がかからない
- 実は「後払い」の仕組み
- 税金の支払い額は大きくなる可能性も
- 運用の利益がなければメリットもない
投資元金や運用の利益に税金がかからない
給与等には、一部所得控除があるものの、所得税が課税され受け取る時点で差し引かれています。確定拠出年金でない一般の投資では、課税されたあとのお金で投資をして、その投資から利益(配当金や値上がり益)があれば、その20%強が金融商品課税されます。
これが確定拠出年金では、積み立ての掛け金が所得控除(非課税)になって(給与として受け取った時点で課税されていれば、確定申告で掛け金分の所得税の還付を受けられる)、投資の利益も非課税。これだけ見ると確定拠出型年金は明らかに有利です。
実は「後払い」の仕組み
ただその後があります。
給与等から自分で積み立て投資をした場合は、課税はそれで終わりです。証券会社の口座から自分の銀行口座に出金するときに所得税がかかったりはしません。でも確定拠出年金では支払い段階で所得として所得税がかかります。
これは考えてみればおかしな話です。自分のお金を積み立て、運用していただけなのに、それを受け取る時に所得税がかかる???
、、、ここまで考えれば、「3段階の税金優遇」とはいうものの、実は「1段(掛け金)、2段(運用)で免除されていたものを、3段め(受け取り)で後払い」する仕組みだと気がつきます。
税金の支払い額が大きくなる可能性も
その場合でも、公的年金等控除や退職所得控除があって優遇されているとは言えるのですが、支払う税金の額だけでいうとこの後払いのほうが大きくなる可能性もあります。なぜなら20年30年の確定拠出年金の運用が成功すれば、受け取るお金は掛け金の何倍にもなっていて不思議ではありません。控除があったとしても、掛け金の何倍にもなった金額から見れば一部になるので、一時金で受け取る金額次第では税率も高くなって、税金の額はこちらのほうが大きくなる可能性も出てきます。
運用の利益がなければメリットもない
税金についてもう一点。単純な話ですが、「運用益非課税」は運用が利益になってはじめてメリット、ということがあります。
有利な制度だと聞いて、投資信託での資産運用の考え方も無いまま、やみくもに確定拠出年金を始めても、運用が含み損になった時に嫌になって運用をやめてしまったりすると、メリットどころか運用損が残るだけ、ということもあり得ます。
だから、税制のメリットに飛びつくまえに投資信託投資の考え方が大切なのです。
確定拠出年金の使いかた
最後に、実際に確定拠出年金を利用するにあたってのポイントにも触れておきます。
- 投資信託の選びかた
- 利用する金融機関について
- 積み立て限度額の問題
投資信託の選びかた
確定拠出年金を始めると、掛け金で投資する投資信託を選ぶ必要があります。とくに証券会社の個人型イデコではプランの選択肢が多く悩むかもしれません。
でも確定拠出年金での投資信託投資の目的が、長期での市場の成長を捉えることなら、アメリカや世界の株式市場の動きにそのまま投資できる「インデックス型」の株式投資信託で問題は無いでしょう。この種類の投資信託はどこのプランにも含まれていますし、投資信託の運用管理費用(信託報酬)も低いものが多いです。
運用成績の良い「アクティブ型」の投資信託をプランに揃えている金融機関もありますが、20年30年の間成績を保てるかリスクもあります。株式だけでなく債券(国債、社債など)にも投資する投資信託は、一層運用成績が安定しますが成長も緩やかになります。
利用する金融機関について
投資信託はどの金融機関のプランにもあるようなインデックス型で充分と考えると、金融機関の選択はその他の条件、手数料やサービスを比較することになります。
管理手数料を考えると、確定拠出年金では、制度全体を管理する国民年金基金連合会や管理にかかわる信託銀行などに加入時2829円、積み立て時(毎月)171円の手数料を支払います。また支払い時には毎回440円の手数料がかかります。そのほか窓口金融機関によってこの他に月200円から400円程度手数料を徴収するところがあります。金額は限られていますが、長い期間支払いが続くので、掛け金の上限額が低い場合は思いのほか負担になる可能性があります。とくに窓口金融機関への手数料は無料の金融機関を選ぶに越したことはないでしょう。
サービスは、例えばコールセンターなどの窓口の使い勝手や質になります。受付の時間帯などは広いに越したことはないですが、応対や管理の質などは実際使ってみないとわからないので、まずは信頼できそうな大手で考えてみるということになるでしょうか。
積み立て限度額の問題
自営業者の掛け金上限月6万8千円とは年あたり81万6千円、10年で816万円、20年なら1632万円で、運用益の上乗せまで見込めば充分な額と言って良いでしょう。でも企業年金のない会社員などの上限月2万3千円では20年でも552万円、企業年金のある会社員などの上限月額1万2千円だと20年で288万円に止まり、老後の資金計画は他の退職金や年金との併用が前提になるかと思います。頭に置いておく必要はあるでしょう。
以上、確定拠出年金について、初心者の資産運用にとっての本当の意味、メリットデメリットを考えてきました。お伝えしたように、投資信託に長期・積み立ての方法で投資する確定拠出年金は基本、優れた資産運用の「器」と言えます。とくに60歳まで20年以上積み立て期間がある若い人には、上の積み立て上限額や手数料のことは頭におきながら、始めてみる価値があります。